法律よもやま話13   

弁護士 松 原 三 朗  クレアヒルだより 第19号(平成16年7月)
     

   

 最近は少年犯罪が目立ちますね。ついこの間は小6の女の子が同級生の頸動脈を切って殺害するという事件が、昨日は女子中学生が口封じの為に5才の男の子を5階から突き落とすという事件がありました。もっとも、凶悪犯罪の低年齢化は今に始まったことではなく、例の小学生首切り事件など枚挙にいとまがありません。  
 人が刑事事件を犯した場合、大人は刑事訴訟法に従った刑事処分を受けますが、少年は少年法に従った保護処分を受けます。
少年は未だ若く成長中にあるのだから、処罰するのではなく、将来立派な大人として立ち直ってもらうように教育することが大切だとの考えに基づき、保護処分という刑事処分とは異なった処遇をする訳です。   
 少年法にいう少年とは20才未満の者をいい、最低年齢の制限はありません。
ちなみに、児童福祉法では、
  乳児   1才未満
  幼児   満1才〜小学校就学前日まで
  少年   小学校就学〜18才未満
となっています。
少年法の少年は最低年齢の制限がないと言っても、3才の幼児でも8才の小学生でも処罰されるかというと、そういう訳ではありません。刑事事件では、刑法第41条によって「14才に満たない者の行為は罰しない」となっていますから、14才未満の者はどんな事件を犯しても刑事罰を受ける事はありません。 
 少年が何か事件を犯すと、先ずは少年法によって手続きが進められます。何か事件を犯した少年は、
  犯罪少年  14才以上〜20才未満で刑事事件を犯した者
  触法少年  刑事事件を犯したが14才未満であるため刑事事件能力がない為、刑事罰を加
          える事が出来ない者
に分類されます。長崎県佐世保市の小6の女の子は12才ですから、触法少年に分類されることになります。
刑事事件が発生すると、先ずは警察が出動して犯人を拘束します。拘束してみたが14才未満だった事が分かれば刑事罰を加える事は出来ませんから、警察は逮捕したり拘留したりする事ができません。この場合は、先ず児童相談所へ通告しなければなりません。少年法第3条2項に「家庭裁判所は14才に満たない者については児童相談所長から送致を受けた時に限りこれを審判に付することができる」との定めがあり、先ずは児童相談所にどう処置するかを委ねることとなっているからです。児童相談所は、通告を受けた触法少年に対し必要な調査を行なったり、医学的、心理学的判定を行なったり、一時保護をしたりします。
然し、児童福祉法に基づく処遇より少年法に基づく保護処分の方が適当だと判断すれば家庭裁判所へ送致することとなります。
家庭裁判所へ送致されたら、14才以上の犯罪少年と同様の保護処分手続きが進行します。佐世保事件では児童相談所長から長崎家庭裁判所佐世保支部へ送致されました。 
 14才以上の少年が刑事事件をおこすと、大体のような手続きが進行します。
ア、先ずは警察が出動して犯人を逮捕したり取り調べます。必要があれば拘留もします。
イ、捜査によって事件の内容が明らかにになった時点で捜査記録と少年の身柄を家庭裁判所へ
  送致します。逮捕した場合、早ければ3日位、普通で2週間位、最長で23日で家庭送致と
  なります。
ウ、送致を受けた家庭裁判所は、少年の家庭環境、性格、反省度等、今後どのように処遇する
   のがよいかの情報を得るため少年鑑別所へ入れるのが普通です。これを観護措置と
   いいます。鑑別所へ入れる期間は2週間です。でも2週間では調査が充分出来ない時は
   もう2週間延長することができます。
エ、鑑別所で調査するのと平行して家庭裁判所調査官が両親と面談したり、 職場を訪問したり、
   少年自身と話したり して調査をします。
オ、以上の捜査と検察官から送致された捜査記録とを検討し、審判期日に審判が開かれます。
   大人の刑事裁判に相当するものですが、非公開であること、原則として検察官の立会いがな
   いことなど刑事裁判とは大きく異なります。弁護士はつくことができますが、刑事裁判とは違
   いますから、弁護人とはいわず付添人と表現します。   
 審判の内容は次のとおりです。
ア、検察官送致
   大人と同じ刑事裁判手続きで刑事処分をするのが相当と判断した場合は保護処分ではなく
   刑事処分を受けることとなります。
   殺人や傷害致死など重大事件で、18才、19才と大人に近い少年は殆どこの処分です。
イ、 少年院送致
   刑事処分が相当とまではいかないが、非行の程度が相当進んでおり事件も悪質だという場
   合の保護処分です。
ウ、 保護観察
   社会へ戻って普通に生活してもらいますが、月に1回位保護士に面談して近況報告をする
   などして保護観察署の監督に服しつつ更正します。刑事処分の執行猶予判決と似ていま
   す。
エ、 児童自立支援施設又は児童養護施設送致
   14才未満の少年で重大な事件を犯したような場合、そのまま家庭に帰してもうまく更正でき
   ないような場合に公の施設に入所して自立できるように支援し、教育します。
   長崎の小6の少女はこの処置を受けることになります。