法律よもやま話14

 

弁護士 松 原 三 朗  クレアヒルだより 第20号(平成17年1月)
     

   

 今回から憲法の話です。憲法というと何か固そうで、皆さん敬遠しそうですが、何といっても国の最高法規で、我々の生活に密接に関係していますから、是非とも関心をもってもらいたいと思います。
 先日自民党の憲法改正案の骨子が発表されました。民主党も改正案を考えておりますし、憲法改正は近々全国民的な論議を呼ぶことになります。その意味からも勉強しておくことにしましょう。   
 憲法が実は我々の生活に身近な存在である例を示しましょう。
 かっては相当数の企業で男子と女子の定年年齢を区別していました。例えば、男子は55才、女子は50才といったような終業規則がむしろ普通でした。男子と女子では体力が違うので、年をとってからの労働能力が違うというのが差別の理由でした。現在ではこのような差別は違法であることは常識です。
 その根拠は憲法です。憲法14条には「全ての国民は法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により政治的経済的社会的関係において差別されない」と規定されています。男女で定年年齢に差を設けることは「女性であることによって社会的関係で差別された」ことを意味しますから、憲法違反です。憲法違反の就業規則は無効です。
 もう一つの例です。民法に定める相続分は非嫡出子は嫡出子の半分です。
 私を例にすれば、私と妻の間には3人の子供がいます。正式な夫婦間の子供で、これを嫡出子といいます。 
 実は私は昔浮気をして、その彼女との間に子供が1人います(本当はウソですよ、念のため!)。その子は正式な夫婦の間の子供ではないので非嫡出子といいます。私が死んで7,000万円の財産が残り、子供4人が相続しました。この場合嫡出子3名は2,000万円ずつもらえるのに、非嫡出子は半分の1,000万円しかもらえません。この結論はおかしいと思いませんか?母親が誰であろうと4人は皆私の血を分けた子供ですから平等であるべきだと思いませんか。この民法の規定も憲法14条に反するのではないでしょうかとの疑問がありますよね。
 このようなケースについて東京高等裁判所の平成5年6月23日決定は嫡出子、非嫡出子かは憲法14条にいう「社会的身分」であるとし、「社会的身分」であるとし、社会的身分によって差別されないとの規定に反するから憲法違反だとして民法の規定を無効とし、4人の子供に平等な相続分を認めました。
 このように憲法は我々の身近な生活に大きな影響を与える最高法規なのです。この憲法がどのように改正されるかは大変な問題といえます。
どうですか、少しは憲法に興味が出てきましたか?