法律よもやま話20   

弁護士 松 原 三 朗 クレアヒルだより 第26号(平成19年7月)

  

   

 先日の新聞に、しじみの密漁をした人に罰金刑が言い渡されたという記事が載っていました。
密漁とは、本来漁をする権利のない人が隠れて密かに漁をすることです。
宍道湖は、周辺住民は元より島根県民全体の、いや日本国民全体の財産であり、そこに生息する魚や貝は自然に繁殖したものですから誰でも自由にとっってもよいではないか、という考えもあり得ます。海に生息する魚や貝も同じです。
 私は、隠岐郡布施村(現在は合併により隠岐の島町布施)の出身です。今でも毎年盆休みには里帰りをします。その時は必ず海遊びをします。海遊びといっても、我々隠岐出身者は砂浜でパチャパチャ戯れる、などということはしません。かんこ舟で沖に出て海にもぐってサザエやアワビをとったり、タコをつかまえたり、ボラや石鯛をヤスでついたりするのが我々のいう海遊びです。
 然し、以前はそれほどでもなかったのですが、特に最近はサザエやアワビを採ることは地元出身者である我々にも厳禁となりました。
 1年に1回、1日か2日の里帰りの時の海遊びに、どんな権利があって目くじらを立てるかと思いたくなりますが、敢えて採れば立派な密漁です。
 サザエやアワビを採る権利を漁業権といいます。
 漁業権には獲物の種類や漁法によって色々な種類がありますが、海岸や砂浜、湾内など、海辺の近い所でヤスを使ったり、素もぐりなど、単純な漁法で貝や海草(サザエ、アワビ、ウニ、もずく、岩のり、わかめなど)などを対象とするものは第1種共同漁業権と呼ばれています。
 漁業権というものを認め、漁業権をもつ者以外の人が採ることを禁止する法律(漁業法)を作った意味は2つあります。1つは、誰でも自由に採ることを認めると、乱獲により資源が枯渇してしまうことから、資源保護という目的です。もう1つは、漁業を営む者を制限することにより漁業という職業を保護、育成するという目的です。
 漁業権は、1人1人の特定の人に帰属するのではなく漁業協同組合に帰属します。
漁業協同組合は、組合として漁業権を行使することもできますが、組合員1人1人か、組合のもつ漁業権を行使することを認めることもできます。
 従って、私が隠岐でサザエやアワビを自由に採りたいと思えば、漁業協同組合の組合員になることしかありません。然し、組合員になるためには資格条件があって、それはその地区に居住していなければならないということです。
 私のように出身は隠岐だが今は松江に住んでいる者が、出身地の漁業の組合員になることはできないのです。かくて私は隠岐に帰って居住しない限り、海遊びをしてサザエやアワビを採ることはできないのです。私は法律家ですから、漁業の組合員である親父の代理人として漁業権を行使という考えを生み出しました。でも、残念ながら漁業権は組合員自身しか行使できず、代理人による行使はできないことになっていますので、矢張りできません。
 漁業という職業や資源の保護の為、漁業権という制度は止むを得ません。未練は残りますが、今年も密漁などせずに波打ち際でパチャパチャ遊ぶしか仕方ありません。