法律よもやま話21  

弁護士 松 原 三 朗 クレアヒルだより 第27号(平成19年11月)

  

   

  最近テレビや新聞でたびたび山口県光市の本村さんという母子殺人事件を巡る弁護士の弁護のあり方がとりあげられています。
この事件は、18才の少年が強姦目的でアパートに押し入り、母親を強姦しようとしたものの、激しく抵抗されたため絞殺したうえ屍姦したというものです。そのとき横にいた1才になる女の子が泣き出したので、この子も殺し、逃げる際母親のサイフを奪い、ゲームセンターで遊んだというものです。
この事件で検察官は少年を絶対に死刑にすべきだと主張しましたが、一審の山口地方裁判所は無期懲役としました。
少年法では、18才未満の少年が罪を犯し、死刑に処すべきときは無期懲役にすることとなっています。即ち、18才未満の少年はどんな罪を犯しても死刑になることはありません。
この少年は18才になってわずか30日しかたっていない時にこの事件を犯しました。裁判所はこの少年法の趣旨からして死刑は回避すべきだとしたのです。
   検察官は控訴しました。そして、少年が拘置所から友達に出した手紙を、全く反省していない証拠として提出しました。手紙には「本村さんは調子に乗っている」とか「マスコミによく出ているが、それで気が晴れるなら好きにしたらよい」とか「この勝負は自分が勝った」(本村さんは死刑判決を望んで色々運動をしていたが、無期懲役となったので)とか「ある日犬が歩いていて可愛い犬に出会ってやっちゃった。これって罪なのか?」とか、それはひどい内容でした。それでも広島高等裁判所は山口地方裁判所と同じく無期懲役としました。
   検察官は最高裁に上告しました。最高裁は、少年はひどい罪を犯したから原則死刑に処すべきであるとしました。少年法は18歳になっているので関係ないとして、死刑を回避すべき特別の事情があるか否か、今一度審理するようにと、死刑判決を破棄して審理をやり直すよう広島高等裁判所へ差し戻しました。そして、今広島高等島裁判所で審理中ですが、弁護団は、少年は母子を殺すつもりはなかったなどと、これまで少年は殺人を認めていたのにこれを否定する主張に変わってきました。
   皆さんが裁判官だったらどのような判決にしますか。無期懲役ですか?死刑ですか?このような事件について裁判官に全てを任せるのではなく、同じ国民の犯した事件については我々同じ国民どうしで、どのような刑事処分にするかを決めることにしたらどうでしょうか。という発想から皆さんも既にお聞き及びの裁判員制度が始まります。平成21年4月からスタートですから、もう1年半後です。裁判員は選挙人名簿から無作為に選ばれるので、皆さんも選ばれる可能性は充分あります。特別な理由がない限り拒否できないので、選ばれたらやるしかありません。法律にうとくても十分できますので、頑張りましょう。