法律よもやま話24 

弁護士 松 原 三 朗 クレアヒルだより 第30号(平成20年11月)

  

   

 前回に続いて性犯罪の話です。
今回は本題とも言うべき子供に対する性犯罪についてです。
子供に対する性犯罪を取り締まる法律や条例は、児童買春法、児童福祉法、青少年健全育成条例です。 このうち児童福祉法は、児童に対する性犯罪の取り締まりを目的とするものではなく、文字どおり児童の福祉を推進することを目的とする法律です。 従って、児童に対して禁止している行為として、「身体に障害又は形態上の異常がある児童を、公衆の観覧に供する行為」などが挙げられています。 それらの禁止行為と並んで、「児童に淫行をさせる行為」も含まれ、違反した場合は10年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられます。 ちなみに、児童とは満18才に満たない者をいいます。 
 明確に児童に対する性犯罪の取り締まりを目的とした法律は、児童買春法(正確には、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律)です。この法律でも、児童とは満18才未満の者をいいます。 この法律で禁止されているのは、対償を供与して児童と性交等をする行為と、児童ポルノの作成、提供です。 性交等の中には、性交と、性交に準じる行為(児童の性器、肛門、乳房を触る、若しくは児童に自己の性器を触らせる)があります。 売春防止法では、売買春そのものは何らの罰則規定がないことは、前回話したとおりですが、この法律では18才未満の児童を買春する行為は5年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられます。当然ですが児童は罰せられません。
 児童買春法の大きな特長は、児童ポルノの作成や提供が禁止されていることです。ポルノの作成や提供は、刑法では原則として何らの罪にはなりません。但し、ポルノなどの猥せつ物を領有したり、販売したり、公然と陳列する行為は罰せられます。 頒布とは、不特定多数の者に提供することですから、例えばHビデオを友達に貸したり譲ったりすることは何らの罪にもなりません。 又、Hビデオを自宅で奥さんに隠れてひそかに鑑賞することも、公然と陳列している訳ではないので、何らの罪にもなりません。公然と陳列するのは、映画館で上映することなど不特定多数の者が見れる状態におくことです。 ところが、児童買春法では、児童ポルノを作成すること自体も、又例えば友達に対して提供する行為も、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられます。
 では、児童ポルノを自ら鑑賞する目的で所持すること自体はどうでしょうか。現在のところ、そのこと自体は何らの罪にもなりません。その児童ポルノをくれた友達は提供した者として罰せられますが、譲り受けた者は罰せられません。然し現在、児童ポルノを所持すること自体を禁止し、違反したら罰しようとの立法作業が進行中です。 いくら製造や提供を禁止しても、結局そういうものを鑑賞して楽しむ者がいる限り、児童ポルノの根絶は果せないからです。外国では、個人的に所持すること自体を罰する国が多く、日本は遅れているとの批判もあります。 皆さん、性的関心を持って心ときめくことは、元気の源として大いに結構ですが、是非とも健全な関心で行くことにしましょう。
 最後に青少年健全育成条例です。
島根県は、島根県青少年健全育成条例を制定しています。その第21条で、「何人も青少年に対しみだらな性行為、又は猥せつな行為をしてはならない」と定めています。これに違反すると、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。 この条例でいう青少年とは、満18才未満の者をいいますから、児童買春法や児童福祉法でいう児童と青少年とは同一です。 児童買春法は、児童と性交等をするに際し、対償を供与することが要件ですが、条例では何らの対償を出さなくても、みだらな性行為や猥せつな行為は罰せられます。 対象はみだらな行為ですから、例えば16才の少女と17才の少年が結婚を前提として交際し、その過程で肉体関係ができたというような場合は該当しません。私のように妻子ある男が、単に性的好奇心を満たす為に女子高生とHするというような場合、みだらな性行為となります。 条例は、各都道府県が独自に制定しますが、かつては東京都の健全育成条例ではみだらな性行為は罰せられませんでした。従って、島根県では18才未満の者とHしたら罰せられたのに、東京で遊べば無罪でした。然し、東京でも条例が改正され、現在は罰せられます。然も、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金となっており、島根県の倍です。旅行気分で羽目を外さないよう、くれぐれも御注意下さい。