法律よもやま話26 

弁護士 松 原 三 朗 クレアヒルだより 第32号(平成21年8月)

  

   

 最近親子のトラブルから、親が子を殺す、逆に子が親を殺す、という事件が頻発しているように感じます。 ついこの前も、出雲市で中学生が親を殺すという痛ましい事件がありました。親は(自分がどうだったかはさておき)子供に過大な期待を寄せ、学業成績が芳しくないといっては折檻していたようで、反発した子供が犯行に及んでしまったものです。 
 子供の成績が悪い、あるいはもっと成績をあげようとして家庭教師をつける、という経験は皆さんにもおありだと思います。 ある業界大手の家庭教師派遣センターのシステムは、有効期間を1年とし、派遣回数を50回とするチケットを30万円で販売しており、Aさんが子供の為にとこのチケットを買いました。 ところが、うたい文句では「やる気にあふれた家庭教師を」とか、「選りすぐりの学生ばかりの家庭教師を」といっていたのに、初めに派遣された家庭教師は全くやる気のない学生で、終始だるそうな態度でした。 そこで3回目からは別の学生に替えてもらったところ、これが又全く能力のない学生で、子供の質問にしどろもどろで、殆ど答えることができませんでした。 腹を立てたAさんは、もう家庭教師の派遣は止めることとし、残ったチケットの代金を返してもらうことにしました。ところが契約書には、中途解約の場合は、残ったチケットを半額で買い戻すと定められていました。30万円÷50回=6000円が1回分となりますから、47回×6000円=28万2000円を返してもらうべきところ、その半分の14万1000円しか返せないという訳です。Aさんは納得できず、私のところに相談に来られた、という次第です。
 皆さんは、特定商取引法という法律を御存知でしょうか。この法律では、このような家庭教師の派遣とか、エステティックとか、会員制スポーツクラブとか、結婚相手の紹介制度とか、様々な継続的なサービスを提供する制度を利用する場合の中途解約についての定めをしています。 結論的にいうと、一定期間(家庭教師の派遣の場合は2ヶ月)を超えるサービス提供を予定するものは、中途で自由に解約する権利が認められています。中途解約した場合、それまで利用した部分は当然代金は返りませんが、今後の分については原則全部返ります。 もっとも中途解約によって業者には実際に損害が生じますので、その損害分は引かれます。然し損害金は、業者と消費者が契約で自由に決めることはできず、法律で決まっています。家庭教師派遣の場合、法律で5万円か、1ヶ月分の授業料相当額のいずれか低い額と決められています。 本件では1年で50回なので、1ヶ月は4.16回となります。切り上げて5回分としても、1回6000円ですから、1ヶ月の授業料は3万円となります。すると5万円より3万円の方が低いこととなりますから、3万円は差し引かれます。 結論として、Aさんは28万2000円−3万円=25万2000円の返還を得ることができます。契約書にある、半分しか返せないというのは法律で定めた内容に反しており強行規定に反し無効です。
 英会話教室でも、エステでも、長期間の先払いをしたものは中途解約ができますから、やってみてつまらないと思えば遠慮なく解約しましょう。