法律よもやま話29 

弁護士 松 原 三 朗 クレアヒルだより 第35号(平成22年8月)

  

   

 近頃、大相撲界では野球賭博問題で大騒ぎです。我等が郷土の誇り『隠岐の海』さんも謹慎を仰せつかり、お陰で名古屋場所は15戦全敗扱いとなり、再び十両から再起を期すこととなりました。  私も賭け事は決して嫌いではありません。ヘボ将棋でもビール一杯賭けたり、ヘボ碁でもラーメン一杯賭けたりと、大体何でも勝負事には何かを賭けてやります。近頃はカラオケで得点勝負にはまっています(たいがい負けてます)。
それにしても国そのものが元締めになって国民にバクチを勧めています。宝くじ然り、競馬、競輪、競艇然りです。宝くじに至っては、うまくいけば3億円も稼げる大バクチをしかけながら、何故野球賭博は駄目なのか、皆さんも疑問に思うでしょう。  でも、世の中にバクチを放置したら、国民の相当数は一攫千金を夢みて、あるいはバクチでコツコツ稼ごうとして、まともに仕事をしなくなる虞があります。そうなれば、国の産業は衰退し、経済は乱れ、国家は崩壊ということになりかねません。 そこで、日本国民たる者、仕事で稼いで生活するようにと、憲法にも勤労の義務を課しています。然し、働いてばかりではこれ又面白くなく、却って国民の勤労意欲は減退します。  そこで、原則としてバクチは禁止し、例外として、国や地方自治体の責任で前述のバクチを認めて、バクチ好きの国民の不満を解消し、併せて一攫千金の夢を持たせる作戦にでたのです。
では、禁止されているバクチをするとどうなるでしょう。  刑法には、単純賭博罪、常習賭博罪、賭博場開帳図利罪という3つの罪があります。  単純賭博罪は、麻雀でついつい大きな金を賭けてしまったというような単純なバクチです。50万円以下の罰金刑ですから、間違っても刑務所へ行くことはありません(安心してどうぞと言ってる訳ではありません)。  常習賭博罪は、何回も何回もバクチを繰り返し、初めは単純賭博で罰金をくらったのに、懲りずにその後も何回も繰り返したというような場合です。この罪は結構重く、罰金刑はなく、3年以下の懲役です。  最も重いのは、賭博場開帳図利罪です。要するに、胴元になって寺銭を稼いだ奴のことです。大相撲の野球賭博では、暴力団組員が胴元だと言われています。この罪は3ヶ月以上5年以下の懲役です。
話が前後しますが、賭博とは何かといいますと、偶然の勝敗にお金を賭けることです。  映画でよくあるいかさま賭博は、初めから勝負が決まっています。従って、騙されて一生懸命勝負している人でも、賭博罪には問われません。偶然の勝敗ではなく、初めから負けることが分かっているからです。この場合は、いかさまをした方は詐欺罪に問われ、賭けた方は単に詐欺の被害者です。  では、私と里見香奈さんが100万円賭けて将棋をした場合はどうでしょう。これも偶然の勝敗どころか、100%決まっている勝負です。でも実力はアマ4級の私でも、王手飛車を賭け、彼女が何を思ったか飛車を逃げる可能性も無くはなく、矢張り偶然の勝敗に金を賭けた事になります。  従って、私は里見さんとするとしても、決して100万円は賭けません。  さて、皆さんはバクチはどうしますか? こっそりと慎ましくちょっとだけやりますか? 国が胴元のバクチに留めますか?