法律よもやま話8    

弁護士 松 原 三 朗  クレアヒルだより 第14号(平成15年3月)
     

   

今回は法律を知らなくて大損をした話です。
  A子さんは夫が死亡して保険金が2,000万円入りました。それを知った古くからの知り合いであるB子さんから500万円貸してくれと頼まれました。返してくれるか心配でしたが、B子さんは医院を経営するお医者さんの恋人でしたから約束手形にお医者さんが裏書きしてくれました。お医者さんは凄い金持ちでしたから、A子さんは安心して、1ケ月後に返済するという約束で1ケ月後を支払い日(満期日)とした手形をもらい、貸しました。1割のお礼をするというので、50万円がもらえることになり、いい小遣いができると喜びました。
 1ケ月後、B子さんは予定していたお金が入らなくなったので手形を取り立てに出すと不渡りになってしまう、もう1ケ月返済を延ばしてくれと頼んできました。又1割のお礼をするというのでA子さんは応じました。何しろお医者さんの裏書きのある手形があるので安心していました。
 然し、その後何ケ月たっても待てど暮らせどA子さんはお金を返してくれませんし、約束したお礼もくれません。結局B子さんは何千万円もの負債があって、自己破産の申し立てをしてしまいました。
 そこでA子さんは、こうなったら手形裏書をしてくれたお医者さんから500万円を返してもらおうと考え、裁判を起すべく私の事務所を訪れてきました。残念ながらこの場合、お医者さんに請求することはできません。約束手形の裏書き人に請求する為には必ずその手形に記載のある支払日(満期日)に支払いの為呈示(通常は銀行を通じて手形交換所へ廻ります)をする必要があります。如何なる理由があっても、この支払い呈示をしない限り裏書人には請求できません。
 B子さんはA子さんがもう1ケ月待ってくれと言ってきた時、待ってやるのであれば支払日を1ケ月先に約束手形にお医者さんの裏書をしてもらい、前にもらっていた手形と差し換えるべきだったのです。そして1ケ月後には必ず取り立てに出すべきだったのです。
 結局A子さんは500万円を捨てる羽目となりました。法律を知らないで損をしたという話の典型です。