法律よもやま話9

   

弁護士 松 原 三 朗  クレアヒルだより 第15号(平成15年7月)
     

   

 交通事故が相変わらず多いですね。車の性能がよくなり、エアバック等の安全装置も充実しても死亡事故はなくなりません。又、医療が発達して昔なら死亡していたようなケースでも助かるようになりましたが、そのぶん高度の後遺症が残ってしまう事例が増えてきました。
私が関与した交通事故訴訟の例でも、頸椎損傷で首から下が完全に麻痺して寝返りをうつことも顔にとまった蚊を払うことも、排尿、排便すらも全然できないという32才の男性の人がおられます。床ずれ防止の為に3時間毎の体換が必要ですし、排尿は導尿か膀胱を圧迫して尿を出すしかなく、肛門に指を入れて排便するといった日常生活をこれから一生涯続けなければならず、その悲惨さは「気の毒」という言葉ではとても表すことができません。
 交通事故によって人身事故を受けた場合、どれ位の損害賠償ができるか検討してみます。勿論健康はお金にかえれませんが、被害が発生してしまうとお金で精算するしかありません。
先程の32才の男性のケースでは、大型車の運転手さんで年収が500万円位ありましたから、概ね次のような計算となります。

ア、入院慰謝料     400万円

    1年間入院して症状固定となりました。

イ、休業損害       500万円

    1年間入院していた間仕事ができなかったことによる損害です。

ウ、後遺症逸失利益

 一般に67才迄仕事ができるとされています。
従って、67才-32才=35年間仕事をすることができましたが、寝たきりになった為全く仕事ができません。すると単純に計算すると、500万円×35年=1億7,500万円となりますが、然し年収500万円は将来35年の間に毎月もらう予定であったものが、事故による補償金として一度にもらう訳ですから、例えば67才にもらうべき500万円は今もらって預金しておき、67才になった時500万円になるようにしなければもらい過ぎとなります。
 そこで中間利息を控除する必要があり、35年間の中間利息をライプニッツ方式によって計算すると19.9174とな ります。

従って逸失利益は、

    500万円×19.9174=9,958万7,000円となります。

エ、将来の介護費用

 32才の男性の平均余命は46年ですから、46年間は介護を受ける必要があり、1ケ月15万円は必要です。前述の中間利息の指数が必要で、46年は、23.5377です。従って、

    15万円×12月×23.5377=4,236万7,860円となります。

オ、後遺症慰謝料

    3,000万円が相場です。

 以上合計は、1億8,095万4,860円となります。
この金額は高いか低いか、皆さんはどう思いますか。
これに対し、もし死亡していた場合にはどうなるか比較検討して見ます。

ア、入院慰謝料

     変わりません。

イ、休業損害

     変わりません。

ウ、逸失利益

  死亡の場合には生活費がいらなくなりますので、稼いだ金から生活費分を差し引いたものが逸失利益となります。生活費は3割です。従って、

    500万円×0.7×19.9174=6,971万0,900円となります。

エ、将来の介護料

    死亡につき請求できません。

オ、死亡慰謝料

    3,000万円で一緒です。

以上合計は1億0,871万0,900円となり、後遺症よりも7,224万3,960円少なくなります。