トキワレポート

園芸療法について

1.        ガーデニングの効果

昔から「病は気から」と言われてきた。最近の細胞免疫学は精神的ストレスの下でのリンパ球の挙動を解析し、人の心と生体防御システムの関係を雄弁に説明する、精神免疫学という新しい学問分野を打ちたてました。「楽しく暮らすのが健康に良い」のです。
現在、アメリカ合衆国では、医学の力が及ばない患者の心の問題を癒すために、植物の力、音楽や絵画を用いる試みがあり、園芸療法、芸術療法と呼ばれています。

 2.        園芸療法の歴史

園芸療法が大きな変化を遂げたのが、第二次世界大戦後のアメリカ合衆国です。戦争で人を殺し、友を失い、自らの心と身体が傷ついた、合衆国の兵士達の精神的・社会的・身体的リハビリテーションが必要になりました。彼らは、園芸を行いながら自らの心を癒し、体力を回復し、職業を得たのです。この過程を通して、米国各地の大学に園芸療法の講座が開設され、園芸療法の基礎理論、行い方が研究され、次第に園芸療法の対象も広がりを持つようになりました。70年代のはじめには園芸療法士の資格が設けられ、園芸療法協会も設立されました。一方、1950年代の北欧では、その後の福祉政策に大きな影響を与える流れが始まっていました。ノーマライゼーションの始まりです。デンマークの障害を持つ子供の両親達が、「障害者は施設に隔離するのではなく、障害を持ったまま地域で普通の生活が出来るような社会を作るべきだ」と考え始めたのです。
この考えは、合衆国の園芸療法にもとりいれられ、園芸の本家イギリスにも普及しました。医療・教育・福祉の総合化がイメージされ、生活環境の質の向上・福祉の社会的基盤整備が行われました。その結果、合衆国やイギリスでは、あらゆる人々のためのガーデニングをスローガンに、視覚障害者のための庭園(香りの庭)など、園芸療法のデモンストレーション・ガーデンが作られています。

 3.        園芸療法とは

不安と緊張がほぐれる 創造的な表現が出来るようになる 衝動を抑えることが出来るようになる フラストレーションに耐えられるようになる 計画・順位・判断が出来るようになる 自分の行動やその結果に対する自己評価が出来るようになるなどが評価されています。身体的リハビリテーションとして発達した園芸療法が、対象者の精神的側面に着目している点に注意しなければならない。
園芸療法の対象は広く、身体的・精神的問題を含んだすべての人が対象ですが、療法である以上、健常人が園芸を楽しんで心の満足を得る趣味の行動とは一線を画しています。

 4.        合衆国やイギリスにおける園芸療法の対象

身体障害者

身体的機能回復が必要な場合で、植物の世話を通して、喜びを感じながら運動能力の改善を計ろうとするもの。

精神障害者

分裂病・うつ病などの古典的疾患ばかりではなく、パーソナリティに問題のある人も対象となります。

社会的ハンディキャッパー

麻薬中毒者・レイプされた女性・死刑囚などを含んでいます。

高齢者

欧米では子供が親と離れて独立の生活を営むのが通常で、高齢者の社会的孤独が進んでいます。老年性のうつ病による自殺が大きな社会問題となっています。園芸療法を通して、生きる喜びを発見させたいと言うのが目的です。

身体的疾患を有する人

いわゆる病気で入院したり、自宅療法をしている人々のことです。小児病棟に入院中の子供達も対象となります。

 

 園芸療法は現代の医療が積み残した、心の問題を解決してくれる大切な手段と思われます。日本でも、早く園芸療法が普及する事を願います。

           

平成11年9月21日

                   竹田知彦

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